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岡山地方裁判所 昭和50年(ワ)303号 判決

原告

河田勝

被告

三金日比港運株式会社

ほか二名

主文

被告栄吉海運株式会社、被告藤堂は原告に対して各自金一、六四九万四、三八〇円およびこの内金一、四九九万四、三八〇円に対する昭和五〇年六月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告の被告栄吉海運株式会社、被告藤堂に対するその余の各請求および被告三金日比港運株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用のうち、被告三金日比港運株式会社について生じた分は原告の負担、原告、被告栄吉海運株式会社、被告藤堂について生じた分はこれを六分し、その一を原告の負担、その余を右被告両名の連帯負担とする。

原告が被告栄吉海運株式会社、被告藤堂両名のために金一〇〇万円の担保を供したときは、主文第一項のうち金八〇〇万円の限度で、仮に執行することができる。

被告栄吉海運株式会社、被告藤堂両名が金三〇〇万円の担保を供したときは、前項の仮執行のうち金五〇〇万円を超える部分の仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自金二〇〇〇万円及び内金一八〇〇万円に対する昭和五〇年六月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  被告ら敗訴の場合には、担保の提供を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  事故の発生

(一) 発生日時 昭和四七年一月一〇日午後八時一五分頃。

(二) 発生地 玉野市日比六丁目一番一号三井金属鉱業株式会社日比製煉所(以下、「日比製煉所」という。)構内路上。

(三) 加害車 被告藤堂敏光(以下「被告藤堂」という。)が運転していた普通乗用自動車(登録番号なし。以下「本件加害車」という。)

(四) 事故の態様 原告が自転車を運転走行中、本件加害車が時速約六〇キロメートルの速度で追突したもの(以下本件加害車と原告が運転していた自転車の追突事故を「本件事故」という。)。

2  本件事故に因る原告の傷害の部位、程度

(一) 傷病名 脳挫傷、頭部挫傷、左鎖骨骨折、尾骨骨折。

(二) 程度 受傷時意識全くなく、約一週間意識回復せず危篤状態が続いた。

(三) 治療経過 玉野市和田三―一―二〇、松田病院に次のとおり入、通院を要した。

(1) 昭和四七年一月一〇日から昭和四八年七月二五日まで(五六二日間)入院。

(2) 昭和四八年七月二六日から昭和五〇年二月二四日まで通院(五七四日間、そのうち実治療日数二五〇日)。

(四) 後遺障害 四肢痙直性麻痺、排尿排便障害、精神障害の後遺障害があり、

(1) 神経系統の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの(労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級(以下「労災障害等級」という)七級四号該当)

(2) 胸腹部臓器に障害を残すもの(同一一級九号該当)

(3) 大小便神経症

として労災障害等級四級の認定を受けている。

3  責任原因

(一) 被告藤堂は無免許で本件加害車を運転し、前方不注視の過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条による責任を、

(二) 被告栄吉海運株式会社(以下「被告栄吉海運」という。)は港湾運送事業、港内荷役作業等を営む会社であるが、本件加害車を所有してこれを自己のため運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条による責任を、

(三) 被告三金日比港運株式会社(以下「被告三金日比」という。)は陸上及び港湾等における貨物の運送及び荷役を業とする会社であり、被告栄吉海運は被告三金日比の専属的下請人であるが、元請人である被告三金日比は、その荷役運搬業務を担当する業務課の主任である従業員を被告栄吉海運の作業現場に派遣し、右主任の具体的な指揮監督の下に被告栄吉海運の荷役運搬等の作業を行わせているものであり、また、被告栄吉が保有している車両の運転責任者は被告三金日比によつて指定され、本件加害車の運転責任者も被告三金日比によつて平谷保徳と指定されていたものであり、本件事故は日比製煉所構内において本件加害車を回送する途中に生じたもので、被告栄吉海運の下請け作業の執行中もしくはそれに密接に関連する時点において発生したものであるから、被告三金日比は本件事故発生時において、本件加害車に対する運行の支配・利益を有していたものというべきであるので、自賠法第三条による責任を、

それぞれ負うものである。

4  損害

原告(大正一三年一二月七日生)は前記後遺障害のため、定年退職まで五年を残して、昭和五〇年五月三一日、勤務先である被告三金日比を退職することを余儀なくされたものであり、本件事故に因つて被つた損害は次のとおりである。

(一) 逸失利益 三〇六六万六二四九円

原告が退職した昭和五〇年五月当時の月収は一六万五九七五円であり、前年度の年間賞与額は五四万九〇〇〇円(昭和四八年度下期二六万三〇〇〇円、昭和四九年度上期二八万六〇〇〇円)であるから、右退職時の年収は二五四万七〇〇円となる。

原告は五トン以上のクレーンの運転免許経験が一二年以上もある熟練者であつて、六七歳までの就労は充分に可能であつたから、本件事故がなければ、なお一七年間稼働し得た。

労災障害等級四級の場合には労働能力の喪失率は九二パーセントとされるが、右のような重度の後遺障害の場合には、実際には就労不能であるから、一〇〇パーセントの喪失と考えられるべきである。

右によつて、原告の一七年間の逸失利益のホフマン式計算法による年五分の割合による中間利息を控除した現価を算出すると三〇六六万六二四九円となる。

(二) 退職金差額 一〇一万六八〇〇円

原告は被告三金日比から退職金二六二万八八〇〇円の支払を受けたが、定年退職時までなお五年間勤続しておれば、少なくとも四五五万七〇〇〇円の退職金を得られるはずであり、従つて四五五万七〇〇〇円からホフマン式計算法による年五分の割合による中間利息を控除した現価三六四万五六〇〇円との実際に支払を受けた額との差額一〇一万六八〇〇円が退職金の逸失額である。

(三) 入院雑費 二八万一〇〇〇円

一日五〇〇円として五六二日分。

(四) 付添費用 一五五万三六七七円

入院中、付添人を雇入れた費用として二七万一六七七円を要したほか、原告の妻が入院の全期間(五六二日間)及び通院実日数二五〇日のうち一五八日付添をしたが、原告の症状に照らして、右の妻の付添も必要なものであつたから、妻の付添費相当額である入院中の付添につき一日二〇〇〇円、通院中の付添につき一日一〇〇〇円の割合による計一二八万二〇〇〇円との合計一五五万三六七七円を要したことになる。

(五) 通院費 一〇万四九六〇円

原告及び付添をした妻が通院のためのバス料金として合計一〇万四九六〇円を要した。

(六) 慰藉料 八六七万円

前記の傷害の部位、程度、入、通院日数からすると、症状固定時までの相当慰藉料が一八〇万円、労災障害等級四級の後遺障害についての相当慰藉料が六八七万円であるから、当該慰藉料は八六七万円である。

(七) 弁護士費用 二三〇万円

着手金として三〇万円。報酬金として二〇〇万円(判決時支払約束)。

5  損害の填補

原告は被告三金日比、被告栄吉海運/から右4の(四)のうちの付添人の雇入れ費二七万一六七七円および諸経費、交通費として九九万円合計一二六万一六七七円の支払を受けた。

6  よつて、原告が本件事故による傷害に因つて被つた前記4の損害の残額は四三三三万一〇〇九円となるが、原告は、本件訴訟においてはその一部請求として、被告ら各自に対して二〇〇〇万円およびその内一八〇〇万円に対する本件訴状が被告ら全員に送達された翌日である昭和五〇年六月二九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1の事実のうち、本件加害車の速度が時速約六〇キロメートルであつたということは否認するが、その余の事実は認める。

2  同2の(一)、(二)の事実は認める。同2の(三)の事実は知らない。同2の(四)の事実のうち(1)、(2)の後遺障害があることは認めるが、その余の事実は知らない。

3  同3の(一)、(二)の事実は認めるが、(三)のうち、被告三金日比が本件加害車について運行支配、利益を有していたということは否認する。

本件事故現場は日比製煉所構内であつて、自動車を運転するについて免許は必要ではなく、また、被告藤堂は自動車の通常の運転に差支えない程度の運転技術を有していたのであるから、被告藤堂が自動車の運転免許を受けていなかつたことと本件事故の発生との間に因果関係はない。

4  同4の冒頭の事実のうち、原告が退職を余儀なくされたということは否認するが、その余の事実は認める。

被告三金日比は松田医師の助言および従業員の福利厚生の見地から、原告に勤務可能な職場を与えようとして尽力したのであるから、原告に労働の意欲さえあれば職場復帰が可能であつたのであり、また、労働することによつて後遺障害の程度も軽減することが可能であるにもかかわらず、原告が補償を得た方が得策という気持になり、労働意欲を全く失なつてしまい、自ら退職したのであるから、本件事故による原告の傷害と退職との間には因果関係はない。したがつて、原告の退職が不可避的なものであるということを前提とした損害発生の主張は失当である。

(一) 同4の(一)の事実のうち、原告がクレーン運転手であつたことは認めるが、その余は否認する。

原告はクレーン運転手であつたが、クレーン運転手はその職種の性質上、一般的に高年齢者はおらず、また原告の本件事故前における健康状態からして、定年後においても原告が従前と同様の収入を得られるという推定は誤りであり、原告主張の給与中には、残業による収入も含まれているが、原告の退職時前後の残業時間の減少状態から考えると、原告主張の給与額を将来の収入の算定の基礎とすることは妥当でない。

(二) 同4の(二)の事実のうち、原告が支払を受けた退職金の額は認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同4の(三)ないし(五)の事実は知らない。原告主張の入院中の雑費額は、原告が入院していた時期の基準に照らすと高額過ぎる。

(四) 同4の(六)の相当慰藉料額は争う。

被告らは原告に対し、これまでにかなりの額の補償金の内払いをし、また、原告の職場復帰に尽力するなど金銭上、その他の面でも十二分な誠意を示している。それにひきかえ、原告は社会復帰の努力を怠つたのであるから、この双方の誠意の差を考え合わせると、本件事故による傷害についての原告に対する慰藉料額は、通常の例より低額なのが相当と考えられる。

(五) 同4の(七)は知らない。

三  被告らの抗弁

1  過失相殺

本件事故当夜は、小雨混りのもやのかかつたような見通しの悪い気象条件下にあつたのであるが、原告は黒つぽい合羽のようなものを着て、無燈火の自転車に乗り、同僚の自転車と二列に並んで道路左端から三・五五メートル内側を漫然と進行していて、後方より進行してきた本件加害車の前部左端で追突されたものであるが、原告の右の走行方法は自転車の安全運転義務に違反するものである。即ち、道路交通法第一八条は車両の通行に関し、所謂キープレフトの原則を定めているが、右の原則の運用にあたつては、一律に道路左端を走行するというのではなく、車の走行によつて起こる風の危険性とか発見の難易からくる衝突の危険性などの考慮により、自転車のように小さい車両は道路の一番左端を、ダンプカーのように大きな車両は道路のむしろ中央寄りを走行すべく運用されているのであり、また同法第一九条は発見しにくい小さな車両が道路の内側よりを走ることによる危険性を未然に防止すべく自転車等軽車両の並進を禁止しているのである。従つて、一般には自転車は道路左端を走つており、またそれを予想して一般に車両の運転は為されているのであるが、原告の前記の走行方法は右の一般の通行方法に反するものであり、被告藤堂を含めて、一般の車両運転者の予期に反するものであり、また本件事故における自転車と自動車との衝突部位からしても、今一歩原告の自転車が道路の左寄りを走つておれば、本件事故は避けられたものである。

右のとおり、原告が並進して道路中央寄りを走つていたこと、及び無燈火で走つていたことは、本件事故現場に同法の適用がないとはいえ明らかに本件事故惹起についての過失というべきであるから、過失相殺すべきである。

2  損害の填補

(一) 被告らは原告に対して、本件事故に因る傷害の補償金として既に合計一二三七万七、四六五円を支払つており、これは原告の損害の填補に充てられるべきものである。

(二) 原告に対しては、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)による障害補償年金および厚生年金保険法(以下「厚生年金法」という)による障害年金の各支給が確定し(原告が六七歳までに受ける労災保険法、厚生年金法による障害補償年金の合計額は少くとも一八六二万八〇二二円となる)ているので、これによつて原告の損害は填補されたものというべきである。

四  抗弁に対する原告の答弁

1  抗弁1の事実のうち、原告の自転車が無燈火であつたことは否認し、原告に過失があつたという主張は争う。

本件事故現場は幅員が一〇メートルもある道路であり、原告が右道路の左端から三・五五メートル中央よりの部分を進行していたとしても、その右側に六メートル以上の本件加害車の走行可能な部分があつたのであり、原告の自転車は直進していたのであるから、本件事故は被告藤堂の一方的過失に因つて発生したものというべきである。

2  同2の(一)の事実のうち、原告が被告らから支払を受けた金員のうち、雑費九九万円、及び家政婦費二七万一六七七円合計一二六万一六七七円が、原告主張の損害の填補に充てられたことは認めるが、その余は、原告が本件で主張している損害の填補に当てられるべきものではない。同2の(二)の主張は争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

第一本件事故の発生と原告の受傷

原告主張の日時、場所において、被告藤堂が運転していた本件加害車が原告が運転走行していた自転車に追突したこと(本件事故が発生したこと)、本件事故に因つて、原告がその主張のとおりの傷病名の傷害を受けたことは、全当事者間に争いがない。

第二被告らの責任

一  本件事故が、本件加害車を運転していた被告藤堂の前方注視を怠つた過失に因るものであること、被告栄吉海運が本件加害車を所有し、運行の用に供していたものであることは、全当事者間に争いがない。

二  被告三金日比が本件加害車の運行供用車といえるか否かについて

1  被告栄吉海運が港湾運送事業、港内荷役作業等を営む会社であることは当事者間に争いがなく、被告三金日比が陸上および港湾等における貨物の運送および荷役を業とする会社であることは被告三金日比が明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる。

2  右1の事実といずれも真正に作成されたことに争いのない甲第九号証の七ないし九、および被告藤堂、被告栄吉海運代表者各本人尋問の結果を合わせて考えると、次の事実が認められる。

(一) 被告栄吉海運は専ら被告三金日比の下請人として、トラツク、ブルドーザー等を使用して日比製煉所関係の鉱石等の荷役、運搬等の作業を行つているものであり、右作業の実施にあたつては、元請人である被告三金日比の業務課の主任たる従業員(作業内容により、本船主任、クレーン主任、車両主任、搬上主任等がある)が作業現場において、被告栄吉海運の従業員を直接指揮監督して行われる。

(二) 本件加害車は日比製煉所構内のみで使用されていたものである(したがつて登録番号がない)が、いわゆるライトバンであり、荷役、運搬作業等の被告栄吉海運の請負作業そのものに使用されていたものではなく、作業現場への従業員の輸送、作業現場間の連絡、作業用ブルドーザーの燃料の運搬等に使用されていたものである。

(三) 本件事故は、被告栄吉海運の従業員である被告藤堂が、被告栄吉海運が被告三金日比から請負つた船内荷役作業に従事し、当日の作業を終えて、被告栄吉海運の作業員詰所へ帰る途中において発生したものである。

右のように認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

前掲記の甲第九号証の七、真正に作成されたことに争いのない甲第九号証の六および被告栄吉海運代表者本人の供述によると、本件加害車の運転責任者に被告栄吉海運の従業員である平谷保徳が指定されていたことが認められ、右甲第九号証の六には、高橋守の、右の指定が親会社の方からされた旨の供述の記載があるが、右の記載のみから、本件加害車の運転責任者の指定が被告三金日比によつてなされたと認めることはできない(本件加害車のように専ら日比製煉所構内において使用することを目的としている自動車には登録番号がない、即ち車体検査を受けておらず、また右構内で運転する限り、運転免許を受けていなくても運転することが違法とならないことなどの点から、右構内における交通の安全の確保、危険発生の防止等のため、構内の安全確保について責任を負う者によつて、右のような自動車等の運転責任者指定の制度がとられることは容易に推測できるけれども、右の責任を負う者によつて運転責任者の指定自体が直接行われるとまで推測することはできない)。

被告栄吉海運が本件加害車を所有していたことと前記(二)認定事実に照らして考えると、前記(一)、(三)認定事実のみによつては、被告三金日比が本件事故当時本件加害車の運行を一般的に支配していたものということはできず、他に被告三金日比が本件加害車の運行を一般的に支配していたものといえるような事実を認めるに足りる証拠はない。してみると被告三金日比が本件加害車の運行供用者であつたということはできない。

第三損害

一  原告に請求原因2の(四)の(1)、(2)の後遺障害があること、原告が定年退職まで五年を残して昭和五〇年五月三一日に被告三金日比を退職したことは全当事者間に争いがなく、いずれも真正に作成されたことに争いのない甲第三号証、同第四号証の一、二、同第一四、一五号証および証人松田穆の証言によると、原告は玉野市和田三丁目一番二〇号松田病院に本件事故当日から昭和四八年七月二五日まで五六三日間入院、同月二六日から昭和五〇年二月二四日までの間(五七四日)に二五〇日通院して治療を受け、同年五月一九日、四肢の痙直性麻痺、精神障害(短気)、排尿便障害等の症状を遺して、一応症状が固定したものと診断されたこと、原告の治療に当つた松田医師は、原告の身体の機能回復を促すために、原告の右入院期間中においても、原告に病院から原告の自宅への往復をさせ、退院後の通院については、できるだけ原告が単独で通院することを勧めたこと、原告は後遺障害について、初め労災障害等級六級該当と認定されたが、昭和五一年三月頃、労災障害等級四級相当と変更認定されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  原告の本件事故に因る傷害と退職との因果関係について

前掲記の甲第四号証の一、二、被告三金日比が作成したものであることに争いのない乙第六号証、被告ら主張のとおりの写真であることに争いのない乙第七号証の一ないし三および証人松田穆、同百田謙司、同河田トシ子の各証言、原告本人尋問の結果を合わせて考えると、次の事実が認められる。

1  本件事故直後から原告の治療に当つてきた松田医師は、原告の症状の回復には、病院の設備による機能回復訓練よりも、職場へ復帰し日常生活を通じて実際的な訓練を行う方が、より効果的であると考え同医師がかつて日比製煉所診療所に勤務していたこともあつたので、原告が松田病院を退院した昭和四八年七月二四日の約一か月後頃から、被告三金日比に対して、軽易な事務的作業の職場で、かつ勤務時間についての拘束についても相当の自由を認めて、原告を職場へ復帰させることをすすめ、協力を求めるとともに原告にも職場復帰をすすめた。

2  昭和四九年九月頃から被告三金日比は原告に対して、職務を、作業内容が比較的軽易で、就業場所が便所、従業員控室に近い秤量係(トラツクに積載した貨物の重量を、積載したままの状態で自動秤量機で秤量し、記録することを主たる作業とする)とし、原告が作業に馴れるまで補助者を一人付ける、勤務日、時間についての拘束についても、原告の身体の状態に応じて、相当の自由を認める、通勤についての付添の必要等が予測されるのであれば、原告の妻を雑役係として採用する、等の条件を提示して職場復帰を促がしたが、原告が求めた、定年までの身分の保障については、確約しなかつた。

3  原告は職場復帰後の作業の遂行に自信がもてなかつたので、被告三金日比が定年までの身分の保障を確約しない以上、一旦職場復帰をしても、職務を履行することができないものとして解雇されるおそれがあり、その場合には、職場復帰しないで退職するよりも経済的に不利益となるおそれがあることを憂慮し、松田医師からは、多少の金銭的利、不利よりも、職場復帰によつて身体の機能回復を図る方が望ましい旨の説得を受けたが、結局職場復帰をせず、被告三金日比を退職した。

4  原告の後遺障害のうち四肢の痙直性麻痺は、原告が改善の意欲を持つて努力すれば改善の余地のあるものであり原告も職場復帰することなく退職はしたが、自宅においてその改善に努めてはおり、極く漸進的ではあるが改善されつつあり、また排尿排便障害も主として精神的なものであり、原告が無用に抱泥しないように努めれば、相当程度の改善が可能である。

右のように認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右1、2認定事実によると、原告は本件事故による傷害の後遺障害のために、被告三金日比を退職せざるを得なかつたというものではなく、職場復帰することも可能であつたということができる。しかしながら、前記第三の一認定のとおりの昭和五〇年二月当時における原告の後遺障害の内容、程度からすれば、原告が右3認定のような憂慮から、職場復帰をしなかつたことをもつて、金銭的得失勘定にとらわれたものということは、原告に対して酷に過ぎるものであり、後遺障害の改善という点からは、職場復帰して、可能な限り規律的に労務作業に従事する方が優つていたにしても、原告が被告三金日比を退職したことは、止むを得なかつたものと認めるのが相当であり、したがつて、原告の本件事故による傷害と退職との間には相当因果関係があるものということができる。

三  原告主張の各損害(弁護士費用を除く)について

1  逸失利益 一、六四八万五、五四七円

(一) いずれも真正に作成されたことに争いのない甲第五号証、同第六号証の一、二、および証人百田謙司の証言、原告本人尋問の結果を合わせて考えると、原告はクレーンの運転免許を受けていて、本件事故当時クレーン運転手をしていたものであり、退職当時の給与は平均月額一六万五、九七五円、前年度の年間賞与額は五四万九、〇〇〇円で、退/職前一年間の収入合計は二五四万七〇〇円であつたこと、被告三金日比においてクレーン運転手の給与は通常の作業員よりも高額となつていたこと、被告三金日比において、定年退職者が嘱託等として引続き再就職する割合は一割程度で、その場合の給与は定年退職時の七割ないし六割程度であり、しかもクレーン運転手として定年退職者が再雇傭された例はないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 前記の当事者間に争いのない原告の年齢(生年月日)、定年退職時までの残存年数、前記第三の一、二認定の原告の後遺障害の内容、程度、改善の可能性、右(一)認定事実によれば、原告の後遺障害による労働能力の喪失による逸失利益は、(1)五五歳の定年退職時までの五年間については、年収二五四万七〇〇円、右期間の平均労働能力喪失率を八五パーセント、(2)定年退職時以降六五歳までの一〇年間については、年収を定年時までの年収の六割である一五二万四、四二〇円、右期間の平均労働能力喪失率を七〇パーセントとして算定するのが相当であり、これによる逸失利益額の、ホフマン式計算法による年五分の割合による中間利息を控除した現価は、別紙計算書記載のとおりとなる。

(三)(1) 原告は、逸失利益算定の基礎として、原告の残存就労可能年数を六七歳までの一七年間、年収を右全期間を通じて原告の退職時の年収である二五四万七〇〇円、労働能力喪失率を全期間を通じて一〇〇パーセントとすべきものと主張するが、原告の退職時の給与がクレーン運転手としてのものであつて、通常の作業員よりも高額のものであつたこと、本件事故がなくても、原告が定年退職時以降もクレーン運転手として稼働できる蓋然性は少く、通常作業の労務者として稼働せざるを得ないものと考えるのが相当であること、原告の後遺障害は逐次改善可能であり、かつ原告が新たに就職して雇傭労働に服することは困難であるにしても、稼働することが不可能ではないこと等からすると、原告の右主張をそのまま採用することはできない。

(2) 被告らは、原告の退職時の給与のうちには、残業による分が含まれているが、被告三金日比における従業員の時間外労働時間数は、原告の退職時の前後を通じて減少する傾向にあるから、原告の退職時の収入額をそのまま逸失利益算定の基礎とするのは相当でないと主張し、証人百田謙司の証言および同証人の証言によつて真正に作成されたと認められる乙第三号証によると、昭和四六年度下期以降、被告三金日比における従業員の平均時間外労働時間数が逐次減少していることが認められ、他方、原告が本件事故以後退職時まで、実際には就労していなかつたことと弁論の全趣旨によると、前記の原告の退職時における平均月額給与には、本件事故当時の原告の時間外労働による賃金相当分が含まれていることが推測されるけれども、それが何程であるかを認めるべき証拠が何もない以上、前記の平均月額給与を原告の逸失利益算定の基礎とする外はないから、被告の右主張は採用できない。

2  退職金差額 一〇一万六、八〇〇円

原告が被告三金日比から退職金二六二万八、八〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、いずれも真正に作成されたことに争いのない甲第一号証、同第七号証の一、および証人河田トシ子、同百田謙司の各証言ならびに弁論の全趣旨を合わせて考えると、原告が被告三金日比を定年退職した場合に支払を受けられる退職金は少くとも四五五万七、〇〇〇円になることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、原告が定年前に退職せざるを得なかつたことによる退職金の逸失額の、ホフマン式計算法による年五分の割合による中間利息を控除した現価は、別紙計算書記載のとおり一〇一万六、八〇〇円となる。

3  入院雑費 二二万四、八〇〇円

本件事故による傷害治療のために、原告が昭和四七年一月一〇日より昭和四八年七月二五日まで(五六二日間)松田病院に入院したことは前記認定のとおりであり、当事者間に争いのない原告の傷病名、程度からすれば、原告の右入院中の必要雑費額としては、全期間を通じて平均一日四〇〇円、合計二二万四、八〇〇円をもつて相当と認める。

4  付添費用 七〇万七、六七七円

(一) 証人百田謙司の証言によつて真正に作成されたと認められる乙第四号証、証人河田トシ子の証言によると、原告の入院中に、付添人の雇入費として二七万一、六七七円を要したことが認められ、右認定を妨げる証拠はない。

(二) 証人河田トシ子の証言によると、原告の入院中に職業的付添人を雇入れたほかに、原告の妻であるトシ子が、入院の全期間を通じて付添をしたことが認められるけれども、前掲記の甲第三号証と証人松田穆の証言を合わせて考えると、原告の入院期間のうち、昭和四七年一月一〇日より同年一二月三一日までの三五七日間については、付添看護を要した(右の一部については日夜を通じて)ものと認められるが、その余についてはその必要性があつたことを認めるに足りる証拠がない。そして右の期間の一部については右(一)のとおり職業的付添人が雇入れられたことも考え合わせると、原告の妻トシ子が付添つたことによる付添費としては三五七日間を通じて一日について一、〇〇〇円、計三五万七、〇〇〇円をもつて相当と認める。

(三) 証人河田トシ子の証言および同証人の証言によつて真正に作成されたと認められる甲第八号証の一ないし四によれば、原告の通院日数二五〇日のうち、原告の体調が良くなかつた一五八日について原告の妻トシ子が付添つたことが認められ、右認定を妨げる証拠はなく、前記のとおりの原告の傷害、症状等からすれば、右付添は必要性があつたものと認められる。

右の通院のための付添費としては一回について五〇〇円、計七万九、〇〇〇円をもつて相当と認める。

5  通院費 一〇万四、九六〇円

前掲記の第八号証の一ないし四および証人河田トシ子の証言によると原告および付添つたトシ子の通院のバス料金とし合計一〇万四、九六〇円を要したことが認められる。

6  慰藉料 五五〇万円

前記の当事者間に争いのない本件事故による原告の傷病名、程度、前記認定の原告の入、通院期間、後遺障害の程度および本件弁論に顕われた諸般の事情(但し、後記過失相殺の点を除く)を総合すると、本件事故による受傷についての原告に対する慰藉料としては五五〇万円をもつて相当と考える。

第三過失相殺

前掲記の甲第九号証の八、九、いずれも真正に作成されたことに争いのない甲第九号証の二、五および被告藤堂、原告各本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められる。

1  本件事故が発生した日比製煉所構内の道路(以下「本件道路」という)は、東西の方向に直線状に通じている幅員約一〇メートルで、アスフアルト舗装された平坦な道路で、道路上の見通しは極めて良く、本件事故発生地点はその東方約三〇〇メートル位から見通すことができる。本件事故発生地点の東方約一七メートルの本件道路の南側(本件加害車、原告の進行方向左側)側端には、夜間の照明用として水銀燈一基があるが余り明るくなく、本件事故発生地点附近は、夜間は暗い。

2  被告藤堂は自動車運転免許を受けておらず、また正規の自動車運転技術の教習を受けたこともなかつたが、日比製煉所構内等で練習して、通常の運転には支障がない程度の普通自動車の運転技術を習得していたので、被告栄吉海運が昭和四六年秋頃から日比製煉所構内専用として使用していた本件加害車(トヨペツトクラウンライトバン、車幅一・六五メートル)を、しばしば運転していた。

3  本件事故の際、被告藤堂は、本件道路を、本件加害車を時速約四〇ないし五〇キロメートル位の速度で運転、西進していたものであるが、当時小雨が降つていたにもかかわらず、ワイパーを発進当初から作動させていなかつたため、前方の見通しが不良となつたので、ワイパーを作動させるため、その作動ボタンを操作しようとしたが、作動ボタンの位置がわからず、直ちに操作することができなかつたので、作動ボタンの位置を探すことに注意を奪われ、進路前方に対する注視を極く短時間ではあるが一時中断し、ワイパーの作動ボタンを操作して、再び進路前方を見たところ、本件加害車の左前方直前に原告を発見し、追突を回避するための運転操作を何ら行うことができないまま、本件加害車の前部左端部分を、原告が乗車していた自転車の後部に追突させた。

4  原告は、自転車に乗車した同僚と並進状態で本件道路を西進していたもので、本件事故の際、原告は本件道路の南側(進行方向左側)側端から約三・五五メートル中央寄りを進行していた。

5  本件事故が発生した時間は、通常の就労時間終了後であり、本件事故発生地点附近の本件道路には、本件加害車、原告とその同僚の自転車の外には、何も通行しているものはなかつた。したがつて、原告も本件加害車の前照燈の光芒によつて、本件加害車が後方から進行接近して来ることは、たやすく知り得たはずである。

右のように認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

本件道路が日比製煉所構内の道路であり、道路交通法は直接適用されない道路であるが、本件道路における危険の防止、交通の安全のためになすべき実質的注意義務は、同法が適用される道路におけるものと異ならないというべきである。したがつて、本件事故の発生については、原告にも右4認定のとおりの走行方法をしていた点に過失があつたものということができる。被告らは、原告の自転車が無燈火であつた点についても、原告に過失があると主張するが、本件加害車は原告の後方から進行して来たもので、対向進行して来たものではないこと、および自転車の前照燈の通常の光度等を考えると、仮に原告の自転車が前照燈を点燈していなかつたとしても、それは、本件事故発生の原因たる過失とはいえないということができる。

前記1ないし5認定事実によつて被告藤堂の過失と原告の過失とを比較衡量すると、本件事故発生の原因としての両者の過失の割合は、前者を九、後者を一と認めるのが相当である。

してみると、被告藤堂、同栄吉海運に対しては原告が被つた損害の九割の限度で、その賠償義務を負担させるのが相当である。

第四損害の填補

一  被告三金日比、同栄吉海運が原告に対して、入院諸経費として九九万円、家政婦代として二七万一、六七七円の合計一二六万一、六七七円を支払つたことは当事者間に争いがない。

二  真正に作成されたことに争いのない甲第一〇号証、前掲記の乙第四号証、および証人百田謙司の証言、被告栄吉海運代表者本人尋問の結果によれば、右一の入院諸経費九九万円のうち九七万二、〇〇〇円は被告栄吉海運が負担して支払つたこと、本件事故後、被告三金日比が原告に対して右一の外に、公傷見舞金一二万円、休業補償金(国庫負担分を含む)五二七万二、三二三円、期末手当一六九万九、二一四円、その他諸手当(酒肴料、再建協力金、復配記念、臨時調整金、玉野竣工記念)八万九、二〇〇円、重度障害者特別餞別金二三五万二、〇〇〇円、退職金二六二万八、八〇〇円、治療費実費(労災保険打ち切り後)一四万三、三一〇円を支払つたこと、右の休業補償金五二七万二、三二三円のうち、被告三金日比において業務上の被災従業員に支払うべきことが定められている分(国庫負担分を含む)四四三万七、一四八円を超える一三四万五、一七五円は被告栄吉海運が負担して支払つたことが認められ、右認定を妨げる証拠はない。

被告らは、右認定の各支払金もすべて前記認定の原告の損害の填補に充てられるべきであると主張するが、右のうち期末手当、その他諸手当、退職金は、原告が昭和五〇年五月三一日まで被告三金日比の従業員であつたことに因つて支払を受けたもので、本件事故によつて傷害を受けたことに因つて支払を受けたものではないことが明らかであるから、前記認定の原告の損害の填補に充てられるべきものでないことが明らかである。休業補償金は、原告が本件事故後退職まで就労できなかつたことによつて、右の期間の賃金を得られなかつたことに対する補償であることが明らかであり、他方、前記認定の原告の損害のうちの逸失利益は、原告が被告三金日比を退職した以降の逸失賃金収入であり、原告は本件訴訟において賠償を求める損害のうちに、被告三金日比退職までの賃金収入喪失による損害を含めていないから、右休業補償金は前記認定の原告の損害の填補に充てられるべきものということができない(但し、右の休業補償金のうち被告栄吉海運が負担した分のうちの後記の額を除く)。治療費実費も前記認定の原告の損害の填補に充てられるべきものでないことが明らかである。

前掲記の証拠によると、公傷見舞金、重度障害者特別餞別金は、被告三金日比の労資間の協定によつて、同被告の従業員が業務上災害を被つた場合に支払われるべきことが定められているところにしたがつて、支払われたものであり、公傷見舞金は入院者に対する慰藉料的なもの、重度障害者特別餞別金は労働能力の喪失に対する補償および慰藉料的なものと認められ、いずれも業務上災害を被つた従業員に対する有形、無形の損失の填補(損害の賠償に限られない)たる性質を有するものと認めるのが相当である。前掲記の甲第一〇号証、証人百田謙司の証言によると、被告三金日比の右の労使間協定においても、重度障害者特別餞別金について、「贈与する」と定められているものと推認されるが、右餞別金が、業務上の被災従業員に対する被告三金日比の損害賠償義務の有無にかかわらず支払われるべきものと定められていることを考えると、「贈与」の語が用いられていることは、右餞別金が損失の填補たる性質を有するものと認めることを妨げるに足りないものというべきである。

三  いずれも真正に作成されたことに争いのない甲第一四、一五号証、証人百田謙司の証言により真正に作成されたと認められる乙第五号証および同証人の証言ならびに弁論の全趣旨によると、原告は前記認定のとおりの後遺障害が遺つていることによつて、労災保険法に基く労災障害特別支給金(一時金)六四万円の支払を受けたほか、同法および厚生年金法に基く労災障害年金、厚生障害年金合計年額一四九万三三九円の支給決定を受け、少くともその昭和五一、五二年分の支給を受けたものと推認でき、右認定を妨げるに足りる証拠はない。

右認定の既に支払われた労災障害特別支給金、労災障害年金、厚生障害年金は前記認定の原告の損害の填補に充てられたものというべきである。

被告らは、労災障害年金、厚生障害年金の支給が決定されている以上、将来支給されるべき分についても、その支給期までの法定利率による中間利息を控除した現価を算出し、その現価の限度で、原告の前記認定の損害が填補されたものとすべきであると主張するが、右の点について被告らの右主張を採用しないことが現在最高裁判所の判例(最高裁判所第三小法廷昭和五二年五月二七日、同年一〇月二五日各判決)として確定していると考えられる以上、その当否についての議論はともかくとして、右判例に従うのが相当であるから、被告らの右主張は採用しない。

四  右のとおりであるから前記認定の原告の損害のうち填補された額は、一の一二六万一、六七七円、二の公傷見舞金、重度傷害者特別餞別金の計二四七万二、〇〇〇円、三の労災障害特別支給金六四万円と支給済年金の昭和五〇年五月末当時のホフマン式計算法による年五分の中間利息を控除した現価二七七万三、九六七円(その計算関係は別紙計算書記載のとおり)の計三四一万三、九六七円の合計七一四万七、六四四円となる。

五  してみると、前記認定の原告の損害の残額は別紙計算書記載のとおり一、六八九万二、一四〇円となるが、被告栄吉海運が右認定の損害填補額のうちの入院諸経費のうち九七万二、〇〇〇円を支払い、原告に支払われた退職までの休業補償金のうち一三四万五、一七五円を負担したことは、前記認定のとおりである。ところで本件事故の発生については前記のとおり原告にも過失があり、被告藤堂、同栄吉海運に対しては原告が被つた損害の九割の限度で損害賠償義務を負担させるのが相当なのであるから、右被告らの損害賠償債務(弁護士費用を除く)の残額は、右の原告の損害の残額から被告栄吉海運が既に原告の損害の填補のために実際に支払つた右の金額のうち右被告らの負担割合九割を超過する額を控除した額の九割である一、四九九万四、三八〇円(その計算関係は別紙計算書記載のとおり)であることとなる。

第五弁護士費用 一五〇万円

右認定の被告藤堂、同栄吉海運の損害賠償債務の残額からすれば、同被告らが負担すべき弁護士費用としては一五〇万円が相当である。

第六結論

以上のとおりであるから、原告の請求は、被告藤堂、同栄吉海運各自に対して一、六四九万四、三八〇円及びこのうち弁護士費用を除く一、四九九万四、三八〇円に対する本件訴状が被告ら全員に送達された翌日であることが本件記録上明らかな昭和五〇年六月二九日より完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては理由があるが、右被告らに対するその余の請求、被告三金日比に対する請求はいずれも理由がないものといわなければならない。

よつて、原告の請求を右の理由がある限度で認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言、およびその免脱について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺井忠)

計算書

1 逸失利益

2,540,700円×0.85×4.3643=9,425,120円(円未満切捨以下同様)

2,540,700円×0.6×0.7×(10.9808-4.3643)=7,060,427円

9,425,120円+7,060,427円=16,485,547円

2 退職金差額

4,557,000円×0.8-2,628,800円=1,016,800円

3 支給済年金の現価

(1) 昭和51年分

1,490,339円×0.9523=1,419,249円

(2) 昭和52年分

1,490,339円×0.9090=1,354,718円

1,419,249円+1,354,718円=2,773,967円

4 損害の残額(弁護士費用を除く)

(16,485,547円+1,016,800円+224,800円+707,677円+104,960円+5,500,000円)-(1,261,677円+120,000円+2,352,000円+640,000円+2,773,967円)=16,892,140円

5 被告藤堂、同栄吉海運の損害賠償債務の残額(弁護士費用を除く)

16,892,140円-(972,000円+1,345,175円)×(1-0.9)=16,660,423円

16,660,423円×0.9=14,994,380円

以上

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